農業にまつわる諸問題は、経済、ビジネスから地方創生、食料自給率などの社会的な課題まで幅広い分野に横断的に関係しています。
特に、日本のTPP交渉参加が話題となった昨今では、「海外産の安い食料品が増えると、日本の農業が厳しい価格競争の苦境に立たされるのでは」といった懸念もあり、国民的な議論に発展しました。
今後、日本の農業を建て直し、発展させていくためには、農業はどうあるべきなのか…。そうした根本的な方向性に関しても、いまだに明確な結論には至っていないように思います。
ですがそんな中でも、近年、次のような声が上がるようになってきました。
「安売りの価格競争ではなく、高品質・高単価の“品質勝負”に注力するべきだ」
そんな流れを後押しするかのように、「本物の食材」を求める食品メーカーの声も、クローズアップされつつあります。
“無添加”需要への対応に、高品質食材が不可欠
食品の安全に対する需要は、年々高まりつつあります。そんな流れの中で、手軽なインスタント食品、冷凍食品でも、添加物を極力使わない方針の食品メーカーも登場しています。
“ミートボールで知られる石井食品(千葉県船橋市)…(中略)…約70年前、つくだ煮の製造で創業した石井食品は、1997年に経営のカジを大きく切った。食品添加物などの使用をやめ始めたのだ。”
無添加で美味しい食品を作るためには、質の高い原材料(食材)が必要不可欠だと、メーカーからは指摘されています。
また、食品生産者サイドにも、国産食材のみを使った加工食品を展開する潮流があります。
JA全農の手掛ける「全農ブランド」です。
商品ラインナップは、カット野菜や煮物などのインスタント食品。
すべて、国産野菜のみを原材料に使用しています。「手軽だが身体によくない」と言われてきたインスタント食品を、「手軽で安全」に変える…。
こうした需要に応えることができるかが、今後の国産農業の展望を図るキーポイントになりそうです。
農産物の高品質化が、対TPPの切り札になる
国産農業の高品質化は、対TPP、対グローバル化の切り札になるとも考えられます。
「TPPで国産農業が危機になる」という懸念は、「海外産の食品のほうが安く、多くの顧客は安いものを求めるからだ」というロジックに則っている一面があります。
ですが、こと食品に関しては、価格の安さだけで選ばれることはないでしょう。
まず何よりも求められるのは、安全です。どんなに安くても、安全性に不安のある食品を、進んで口にしようとする人は、限られているでしょう。
加えて、近年の健康需要の高まりに見られるように、「栄養価」「栄養バランス」なども、食品の選択基準となっています。毎日消費するものだからこそ、「味覚」も決して軽視されないでしょう。
今までのデフレ環境下の市場では、こうした観点に対して、価格面の優位性も比較的重要でした。
ですが、デフレ脱却、経済成長が叫ばれ、それが給与のベースアップ等、消費者生活にも反映が見られるようになった昨今、価格の優位性は相対的にその強みを下げていくと考えられます。
経済の状況、そして食品という製品の特性から、「安かろう悪かろう」が避けられる時代の到来は、充分に予見できます。
そうなった時、「品質勝負」の国産農業品が、低価格路線の海外産に対して、優位に立つヴィジョンは、決してゼロではないと思います。